憲法総論(2)
<法治主義と法の支配>
「法治主義」と「法の支配」、この2つの概念は似て非なるものです。
両方とも、ヨーロッパ発祥の概念ということは変わりませんが、しっかりと違いを把握しておきましょう。
一言で説明すると、「法治主義」とは、国政が議会の定めた法によって運営されることであり、「法の支配」とは、国家権力が正義の法によって拘束されるというものです。
この2つの概念は、歴史の流れを理解するとわかりやすいので、以下では歴史の流れを概説します。
市民革命以前の中世ヨーロッパでは絶対王政の時代が続いていました。
絶対王政とは、王が絶対的な権力を持ち、人々を支配していた時代です。
時にその強大な権力は、人々を苦しめました。
その権力による横暴を排除するため、人々は革命という手段を取って王から権力を奪いました。
具体的な方法は国によって様々ですが、市民革命後は議会による統治が行われました。
議会では法が作られます。
法で国を支配し、民主主義を重視していくこととなりました。
これが「法治主義」です。
この考え方は、ヨーロッパ大陸を中心に広がりました。
しかし、ここでいう法とは、その内容を問いません。
極端なことをいえば、どんなに悪法と呼ばれる法でも、それが法である限りは人々は従う義務があります。
その結果、多数派が法を濫用し、少数派の人権を侵害するということが起きました。
そこで、多数派の横暴に苦しんだ少数派は、より自由を求めてアメリカへと脱出。
後にアメリカは独立戦争を通して独立します。
そして、「法治主義」への反省から、法の内容も重視しなければならないと人々は気づきます。
正義の法で権力を拘束するという考え方に至ります。
自由主義的な考え方です。
これが「法の支配」です。
この考え方は、イギリスやアメリカで発達します。
では、「法の支配」が定義する正義の法とはどのようなものなのでしょうか。
具体的には、以下の4つの要素が必要とされています。
①人権の尊重
②憲法の最高法規性
③裁判所が違憲審査権を持つ
④適正手続きの保障
そして、日本国憲法は第3章で①を、第98条第1項で②を、第81条で③を、第31条で④をそれぞれ規定しており、「法の支配」を採用しているといえます。
それに対して、大日本帝国憲法(明治憲法)は法の支配を採用していませんでした。
もっとも、現代では「法治主義」と「法の支配」は同義として取り扱われることもあります。
しかし、試験では2つの違いをしっかりと理解しておきましょう。
【法治主義と法の支配のまとめ】
・「法治主義」→民主主義を重視→ヨーロッパ大陸を中心に発達→法であれば何でもいい(悪法も法なり)
・「法の支配」→自由主義を重視→アメリカ、イギリスで発達→正義の法で権力を拘束
<憲法の分類>
ここでは、憲法の分類について解説します。
まず憲法には大きな括りとして、「形式的意味の憲法」と「実質的意味の憲法」があります。
「形式的意味の憲法」とは、単に憲法という呼称を用いているものです。
対して「実質的意味の憲法」とは、国家の基本法たる内容を有するものです。
では、その内容とはいったい何でしょうか。
「実質的意味の憲法」には2つの内容があります。
一つは「固有の意味の憲法」、もう一つは「立憲的意味の憲法」です。
「固有の意味の憲法」とは、単に国家の統治システムが定まっていればよく、「立憲的意味の憲法」とは、人権保障という概念が必要となってきます。
【憲法の分類まとめ】
→「固有の意味の憲法」・・・単に国家の統治システムが定まっているもの
→「立憲的意味の憲法」・・・人権保障が必要
<人権の分類>
以下はあくまでも大まかな分類であり、詳細は後程説明します。
・幸福追求権(第13条)→憲法に明文のない新しい人権の根拠条文
・平等権(第14条)
→信教の自由(第20条)
→表現の自由(第21条)
→学問の自由(第23条)
→財産権(第29条)
→教育を受ける権利(第26条)
→労働基本権(第27条・第28条)
・刑事手続上の権利(第31条~第40条)