憲法保障(2)
<二重の基準>
二重の基準とは、裁判所が違憲審査をする場合に、その判断基準を明確にするため、人権を精神的自由と経済的自由に分け、精神的自由を規制する法律は厳格に、経済的自由を規制する法律は緩やかに審査するという理論です。
何故このように精神的自由と経済的自由で物差しを分けるのかというと、たとえ経済的自由が法律で侵害されても、精神さえ無事ならば、国民は民主制の過程(選挙や言論活動等)で、自ら当該法律を是正することが可能だと考えられます。
したがって、裁判所にあまり頼る必要がありません、そこで、経済を規制する法律に対しては、裁判所は緩く審査すれば十分なのです。
逆に、精神的自由が法律で侵害されてしまうと、どうなってしまうでしょうか。
表現の自由が規制された例をとってみましょう。
当該法律を是正する表現をすること自体が違法となり、言論活動や法律案の提案等ができなくなってしまう恐れがあります。
民主制の過程で是正するのは、非常に困難でしょう。
したがって、精神的自由を規制する法律は厳しく審査する必要があるのです。
【二重の基準のまとめ】
・精神的自由を規制する法律→民主制の過程で是正することが困難→厳格に審査
・経済的自由を規制する法律→民主制の過程で是正することが可能→緩やかに審査
<公共の福祉の学説>
(国I2001出題)
①一元的外在制約説
この説は「公共の福祉」を、人権の外から、全ての人権を制約する原理とする説です。
この説に対しては、法律による人権制限が安易に認められる危険があるということと、明治憲法下の「法律の留保」付の人権とあまり変わらず、法律によりさえすれば、いかようにも人権制限が可能となりかねないという批判があります。
②内在・外在二元説
この説は、特に規定のある経済的自由権と社会権のみ「公共の福祉」による制約が可能で、その他の人権は、権利が社会的であることに内在する制約にとどまるというものです。
そして、第13条の「公共の福祉」という概念は、単なる訓示規定で、人権制約の根拠とはならないというものです。
この説に対しては、「知る権利」のような精神的自由権的性格と社会権的性格をもつ複合的な人権はどのように制約されるのかが不明確であるということと、第13条を訓示規定をするため、同情を根拠に「新しい人権」を生み出すことが困難になるという批判があります。
③一元的内在制約説(通説)
この説は、「公共の福祉」とは。人権相互の矛盾、衝突を防止するための実質的公平の原理であり、全ての人権に論理必然的に内在しており、人権同士の矛盾防止のための制約の場合は、必要最小限の規制のみが可能で、弱者保護(社会権の実現)のために政策的に自由権を規制する場合は、必要な限度で規制が可能とするものです。
この説においても、権利の性質等に応じて規制の程度を変える点はよいが、具体的な違憲審査の基準は不明確なままであるとの批判があります。
そこで、裁判所の違憲審査基準を明確にする必要があるということで、二重の基準理論が登場するわけです。
「公共の福祉」の学説はとても難しいので、最低限③一元的内在制約説(通説)を覚えてください。
【一元的内在制約説のまとめ】
・内在的制約→人権同士の衝突回避のための規制→必要最小限の規制のみ可能(規制される範囲が狭い)
・政策的制約→弱者保護のための規制→必要な限度で規制が可能(規制される範囲が広い)